芸術選奨文部科学大臣新人賞 高みを目指さない活動と日常の表現

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芸術選奨文部科学大臣新人賞 高みを目指さない活動と日常の表現


芸術選奨文部科学大臣新人賞 高みを目指さない活動と日常の表現

 2月の終わり頃、突然文化庁の方からお電話があった。
文化庁となにかお仕事をしたこともないし、助成していただいた経緯もない。
なんだろうと思っていると、
「今年度の芸術選奨の芸術振興部門の新人賞にえらばれました」と。
芸術選奨って、あの年度末に新聞に出ているあれですか。
私たちの師匠たち、播磨靖夫さん、加藤種男さん、北川フラムさんが文部科学大臣賞を授与されている。
また、リスペクトしている、上田假奈代さんや、山出淳也さん、甲斐賢治さんは新人賞を。
そんな賞がなんでまた私なのだろうか??
「あの~、なんでなんでしょうか?」と思わず聞いてしまった。
詳しくは教えてもらえず、とにかく3月7日までは全くのオフレコ、13日に授賞式があるから日程を空けておいてほしいとのことだった。

あとで受賞理由と受賞作品?がメールで教えていただいたがさらにビックリ。なんと「表現未満、他」。
表現未満、が?
ほんとうに?

おまけにしばらく経って、授賞式でスピーチしてくれとのこと。
それも文部科学大臣賞と、新人賞の代表2名だけ。(後でわかったが、大臣賞代表は俳優の永瀬正敏さんだった!)
断ることもできたのだが、思わずうけてしまった。

私たちの様な活動を本当にわかっている人はまだまだすくない。
ほとんどの人たちは私たちの活動を芸術だとは思っていないだろうし、やっている本人たちもそこの評価を求めてもいない。
それでも、あえて文化庁や専門委員のみなさんが芸術活動と認めてくれたのだ。
それは素直にうれしいし。
しかし、社会との認識の齟齬というのか、隔たりはかなりのものだろう。

そこで、是非私たちのやっていることを、何よりもこれも芸術なのかと表明してみたくなった。

それからまず考えたことはたけしの参加だった。
まったくもって場違いなたけしを連れて行く。
そこでスピーチをおこなう。
多分たけしはいつもどおり、鍵とタッパーを打ち鳴らすだろうし、声も出すだろう。
それも込で、私はスピーチしようと決めた。

しかし当日までものすごく緊張!
丁度レッツのイベントも始まる時期と重なって、精神的にはきつかった。
何を着ていくのか、たけしはどうするのか、どうやって行くのかなど準備することが半端なくある。
この人と動くのはまずそこがかなり大変。
この忙しい年度末に。
私何やっているんだろうかとおもいながら。

 レッツのやっている決して高みを目指すわけでもない、普通の人たちが日常の営みの中で行っている表現を大切にしていくこと。それが人権を守ることであり、他者をうけいれることでもある。
それをとにかく知ってほしいと思う。考えてほしいと思うから。

受賞より何よりも、そのことを訴え続けること、やり続けることが私のミッション。
だから絶好の機会でもあった。

同時に、何より、家族と、レッツのスタッフと応援してくださっている多くの方々に感謝です。
ここまでこれたとは全く思えていないけれど、やり続けられるのはみなさんのお陰です。
これからもよろしくおねがいします。

周りからは今まで一度もやってこなかったパーティーををやったらと。
感謝の気持ちも込めてみなさんと宴会するのもありかもです。



スピーチは以下の通り。

 認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事の久保田翠です。
この度は、芸術選奨芸術振興部門文部科学大臣新人賞といった大変光栄な賞をいただきまして誠にありがとうございます。
僭越ですが、私からスピーチをさせていただきます。

そこにいかにも場違いな人がいます。
彼は私の息子でくぼたたけしと申します。現在22歳です。
重度の知的障害者で、今でも、食事も、身辺の自立も、排泄も自分でできない人です。

今も入れ物に鍵を入れて打ち鳴らしていますが、これを彼は2歳頃から、今まで1日も欠かすことなく、ほぼ寝る時間意外にくり返し行っている行為です。
非常に音もうるさく、ご来場の皆さまも、なぜこの様な晴れがましい席に、こうした人がいるのだとお思いの方も少なくないと思います。本日はスタッフと共に同席させていただきたいと思います。

彼のこの行為は、学校や公共空間では「問題行動」ととれえられることが多いです。
しかし、障害があろうがなかろうが、人が毎日熱心に取り組んでいることを、そんな簡単に「問題行動」として切り捨ててしまってよいのだろうか、と私は思っていました。
この行為は、視点をかえれば、彼が最も熱心に行っている、彼の人格を現している、彼を表現している、行為だとも捉えることができるからです。

私の運営している障害福祉施設アルス・ノヴァは、こうした、本人が大切にしていることを、とるに足らないことと一方的に判断しないで、この行為こそが文化創造の軸であると考えています。
また、できる/できないといった能力で判断するのではなく、その人がそこにいることを、全肯定することから始めると、今の日本の社会の価値観やルールが果たして本当に正しいのだろうか、幸せにつながるのだろうかという問いかけにつながって行きました。

今回受賞しました表現未満、とは、
特別な力がある人が作る特別な行為ではなく、誰もがもちえる、自分を表す方法としての表現を大切にしていこうとするアートプロジェクトです。

今の世の中は分断や隔絶、孤立といった難しい課題を抱えています。だれもが生きづらさをかんじている、そんな時代です。
しかし、苦しい状況を、変えることは容易ではありません。

しかしそれでも人は生き延びていかなければならない。

その時に必要なのは、自分たちのこと、つらいことを笑いに変える、楽しいことに変える、そういった視点をかえる力です。
そういう力がアートにあると思っています。

障害の人にかかわらず、すべての人の、表現と言ってしまっていいかわからない、この、表現未満、な表れを尊重ずることは、その人の存在を認め、他者との関係を作っていくことです。

こうして、さまざまな分断を超えていく多様性が育まれていくことが私たちの願いです。


作品も作らない、高みを目指すわけでもない
障害のある人の存在と、障害福祉施設をひたすら社会に開く、それをアートを通して楽しく、おもしろく、プロジェクトにして、社会を揺さぶる
こうした活動を、このたび「芸術」として、認めていただきましたことは感謝申し上げるとともに、新しい時代が来たのだと心強く思います。

最後に、この様な評価をしていただきました関係者の皆様、レッツを応援して下さる多くの皆様、レッツのスタッフ、そして私の家族、に感謝いたします。
本日は大変ありがとうございました。









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