レッツ代表久保田のブログ「あなたの、ありまままがいい」

　レッツが運営する障害福祉施設アルス・ノヴァは、作業がない。障害のある人たちがやりたいこと過ごしたことを自由にやることができる環境をつくっている。
「これをやりたい」と意思表示ができる人にはなるべくそれに沿うようにしている。
知的に重い人たちは、「これをやりたい」とは言葉で言わない。

いつもぬいぐるみや大判の布を持っているKくん。それを持って、思い思いに動いたり、寝転んだりとやりたいように、過ごしたいように過ごしている。特に布をヒラッとさせて体に巻き付ける動作なんかとても美しい。

2階は音楽部屋になっていて、ドラム、ギター、ピアノ、エレクトーン、アンプなど一通りのものがある。ドラムなんか2台もある。それをいつも誰かが演奏している。そこにいつもいるのがたけし。たけしはとにかく1日中、音楽に浸っている。毎日毎日いろいろな人達が演奏する音の中で、いつもの石遊びをしている。
なんとしあわせなことか。

Kくんにしてもたけしにしても、一日中、「布と戯れている」「音楽に浸って石遊びをしている」という一見無作為に見える行為をやり続けている。そして、これらは「とるに足らない」『問題行動」として扱われてきた。
つまり続けていても意味のない行動とみなされてしまう。
はたしてそうだろうか？

それがたとえ問題行動といわれるものだとしても、熱心に取り組んでいることに対して、敬意を払うべきなのではないか。
もっと言えば、それはその人の人格を現しているかもしれないし、しあわせの追求、尊厳や人権にも関わることだと思っている。

施設として、「ダラダラしている」とか、「もっといろいろのことをやらせたほうが良いのではないか」とか、「何かができるようになる方がしあわせじゃないか」などなどとよくいわれる。

何か成果になること、実になること、役に立つことにならないと価値が無いと思う人は多くいる。
そもそも彼らの価値は低く、何かやらせなければいけないと。

では、その価値は誰が決めるのか。

それは本人が決めることだと思う。
「基本的人権の尊重」は、「自分の生き方を自分で決める」ことでもある。
どんなに障害が重くても、決める権利と自由があるってことだ。

だからアルス・ノヴァは何かやらさない。

私は、障害のある人というのは、「あなたにとって役に立つとは？」「あなたは、何を幸せと感じているのか？」「生きるとは？」と言った問を投げかける存在だと思っている。
彼らのそのままの姿が、私たちの何かを揺さぶり、思考を深くする源になる。
これが彼らの「シゴト」ではないかと思う。

そして、それを外側に伝えていくのが、スタッフの仕事だと私は思う。

今までもいろいろな事業を行ってきた。
展覧会、パフォーマンス、ライブ、フォーラム・・、最近では観光事業まで。
本当に試行錯誤。

最近のヒットはやはり観光事業だろうか。
アルス・ノヴァに1泊2日以上滞在してもらう。障害のある人たちと「生」に接して、感じた感情を、夜な夜な話し会うという趣向。
それを有料で行なっている。
昨年度から始めたのだが、なかなか手応えがある。
うたい文句に「あなたの人生が変わるかもしれない」とあるのだが、あながち嘘ではない。

　昨年、森山開次さんが2日ほどアルス・ノヴァに滞在された。
TURNのプログラムで、この場を体験し、即興のダンスの披露があった。
力のあるアーティストは、どんな環境でも空気を変え、その人の表現が立ち上がる。
これがアーティストなんだと思う。

私は決して、障害のある彼らをアーティストとは言わないしそうだと思っていない。

彼らの日々の日常を切り取ることで始まったのが「のヴぁてれび」と言える。
あれは作品とか、表現という枠ではなく、「バラエティー」「エンターテイメント」というジャンルで発信している。
気楽な笑いだったり、おふざけだったり。

そのぐらいがちょうどいい感じもする。

障害の人たちを理解してほしい、触れてほしいと思ってひたすらやっているレッツ。
それは、彼らのためでもあるけれど、彼らを知ることで、障害者の世界にいない人たちにも良いことが起こるのではないかと思うから。
福祉、文化、多様性・・
言い方はあるけれどしっくりこない。

今年のはじめ、「表現未満、」と命名してみた。
「表現じゃない」「表現に至らない」「とるに足らないけど大切」・・。
そんな思いを詰め込んでみた。

スタッフが、「「表現未満、」って結局人を大切にするということかなあ」と。

人権
尊厳

そこに行き着くのかもしれない。

まだしっくりこないけれど。
人は幸せになるために生きているのだ。